考察 | 2026年7月2日

自動車のサイバーリスクは、いまやドライバーの問題である

自動車業界のリーダーたちはかつて、サイバーセキュリティのインシデントを企業ITの問題として捉えていました。コストがかかり、企業の評判を傷つけるものではあっても、路上を走る製品そのものとは基本的に無関係だと考えていたのです。その前提は、もはや通用しません。

レガシープラットフォームがソフトウェア定義アーキテクチャ、コネクテッドサービス、AI対応機能と共存するようになった今、攻撃者は組織的・技術的な境界を横断する経路を見つけ出しています。

サプライチェーン、充電エコシステム、クラウドサービスで始まった攻撃が、インフォテインメント(車載情報エンターテインメント)、テレマティクス、その他のドライバー向けシステムに到達するようになっています。

2025年、ある業界分析では610件の自動車サイバーインシデントと1,384件の脆弱性が報告されており、攻撃パターンはドライバーにより近い領域へとシフトしています。

サイバーリスクと製品リスクの境界線は移動した

攻撃の量だけでなく、このフェーズを特徴づけるのは攻撃の「移動の仕方」です。自動車を取り巻く環境は今や、エンタープライズIT、サプライチェーン、ソフトウェアプラットフォーム、車外サービス、そして車両そのものをつなぐオペレーショナルファブリック(統合的に運用される基盤)となっています。攻撃はもはや単一のドメインにとどまらず、ある環境から別の環境へとピボット(横展開)します。

VicOneの最新調査結果も同じ点を裏付けており、以下を報告しています:

  • 地域横断・複数事業にまたがるインシデントは2025年に3倍以上に増加
  • 観測されたサイバーリスクの33%がドライバー向けシステムに直接影響

これは経営層に直接的な影響を及ぼします。かつては一つのチームが修正すべき技術的問題(コネクテッドサービスやサプライヤーシステムの脆弱性)に過ぎなかったものが、今では以下のような問題に発展しています:

  • 顧客の信頼の問題
  • 生産継続性の問題
  • (場合によっては)安全性の問題

攻撃対象領域が広がったことで、ビジネスへの影響も広がっています。規制当局はすでにこの方向に動いています。英国の車両当局はUN R155およびR156を、監査・リスクベースの制度として位置づけ、メーカーに以下を求めています:

  • マネジメントシステムの確立
  • 明確な責任の割り当て
  • 一度きりのテストに頼るのではなく、サイバーリスクとソフトウェアアップデートのライフサイクル全体を監視すること

AIが攻撃の経済性を変えている

AIはこの変化を2つの方向から加速させています。

第一に、攻撃者のスキルの壁を下げています。自動車に関する専門知識が限られた人でも、AIツールを使ってシステムを解析し、偵察を高速化し、調査プロセスの一部を自動化できます。経営層にとって重要なのは、実験のコストが下がっているという事実です。これは、より多くの人が、より多くのシステムを、より迅速に探索できることを意味します。

第二に、AIはまったく新しいリスクを生み出しています。2026年1月、カリフォルニア大学の研究者たちは、欺瞞的な物理テキストがエンボディドAI(身体性を持つAI)システムを乗っ取れることを実証しました。これには自動運転車のシナリオも含まれます。彼らが「CHAI」攻撃(Command Hijacking Against Embodied AI=エンボディドAIに対するコマンドハイジャック)と呼ぶこの手法は、自動運転車テストにおいて81.8%の成功率を達成し、物理環境そのものが攻撃対象になり得ることを示しました。

これは自動車業界のリーダーに対する戦略的な警告です。AIが世界を解釈するとき、サイバーリスクはもはやコード、ネットワーク、APIに限定されません。車両が見て、信頼するものを通じても侵入し得るのです。


リーダーシップの対応は、テクノロジーと同じ速さで変わらなければならない

サイバーセキュリティ対策がサイロ(縦割り組織)の中にとどまっていてはならない理由がここにあります。リスクがサプライチェーン、クラウドバックエンド、車両を横断するのであれば、ガバナンスも同様でなければなりません。最もレジリエント(回復力のある)な自動車組織とは、以下を実現できる組織です:

  • ドメインを横断してリスクを継続的に再評価する
  • プロダクトセキュリティとエンタープライズセキュリティを接続する
  • 個別の技術的障害ではなく、連鎖するインシデントに対してテストを行う

実務的には、これはエンジニアリング、オペレーション、サプライチェーン、セキュリティのリーダー間での共有アカウンタビリティ(共同責任)を意味し、顧客体験、稼働率、安全性に影響し得る問題については取締役会レベルでの可視性が求められます。

DXCが支援できること

DXC Technologyは、現代の自動車が直面するリスクが収束するソフトウェア、データ、バリデーション(検証)の各レイヤーを横断して支援することが可能です。

CARIADとの協業において、DXCはVolkswagen Groupの車両に使用される自動運転ソフトウェアの検証・妥当性確認フレームワークの構築を支援しました。この取り組みにより、テストの高速化とコラボレーションの促進が実現し、チームのイテレーション(反復開発)が迅速化され、システム信頼性の向上とより効率的な承認プロセスにつながりました。

また、自動運転車に焦点を当てた国際的な自動車開発プロジェクトにおいて、DXCはデータ取り込み時間を数日から数分に短縮し、「走行開始までの時間」を50%短縮しました。さらに、ディスエンゲージメント率(自動運転解除率)を人間に近いレベルまで低減することに貢献しています。

サイバーセキュリティの領域では、DXCはUNECE R155/R156およびISO/SAE 21434に準拠した自動車サイバーセキュリティテストおよび脅威分析能力を構築しています。

ソフトウェア定義車両(SDV)開発プログラムにおいては、DXCのAMBER Platformが冗長な開発の削減を可能にし、開発期間を最大50%、コストを最大30%削減する成果を自動車メーカーにもたらしています。

リーダーへのメッセージは明確です。サイバーレジリエンスは、ソフトウェアファクトリー、バリデーションプロセス、オペレーティングモデルに組み込まれなければなりません。後から付け足すものではないのです。

自動車業界のリーダーが次に取るべきアクションは何でしょうか。サイバーセキュリティを、製品・サプライチェーン・ブランド信頼の優先事項として、経営層が直接オーナーシップを持つべきものとして扱うことです。 この新たなステージにおいて先頭に立つのは、以下を実現できる企業です:

  • ドメインを横断してリスクを可視化する
  • 継続的に対応する
  • サイバーインシデントが重大なビジネス危機に発展する前に、ドライバー体験を守る