2026年7月2日
競争力の源泉2:欠品削減・過剰在庫削減という現場課題の解決
By 永塚 岳大
前回のブログ「競争力の源泉1:製造業の課題をSAPが変える」において、SAPが「リアルタイムの在庫・資産管理と需要予測の高度化」および「サプライチェーン全体の可視化による現場変革」を可能にすると述べました。
日本の製造・流通・サービス業の現場では、「欠品をなくしたいが、在庫は増やしたくない」という、相反する課題に長年取り組んでいます。しかし、現場スタッフの経験と努力に頼った改善だけではすでに限界に達しているか、近くその限界を迎えると考えられます。
本記事では、自動車の補給部品を例に取り上げます。個社内の対応からSCM全体へと視点を広げること、また信頼性の高いデータベースを軸にした自動化・システム化された処理を通じて、現場で起きている問題とその課題を紐解いていきます。
欠品に伴う納期遅延による機会損失と販売店の業務圧迫
本題に入る前に、まず欠品と過剰在庫について整理しましょう。欠品には、販売店での欠品とメーカーでの欠品があります。まず、自動車補給部品を例に販売店での欠品を説明します。
1. 販売店での欠品について
欠品が発生すると、販売店・メーカー双方が機会損失という深刻な事態に直面します。お客様が「在庫がないなら注文しない」と判断されるためです。特に、他店でも入手しやすい部品は、在庫の有無がそのままお客様満足度に直結します。
【補足:販売店と用品店の違い】
自動車販売店は、特定メーカーの高品質な「純正部品」を提供し、安心感や保守を強みとします。一方、自動車用品店(アフターマーケット)は多様なメーカーに対応する「汎用品」を幅広く安価に揃え、緊急時の入手性に優れています。
2. 汎用品の他店流出とお客様の不信感
バッテリー、電球、ワイパー、オイル、タイヤなどは自動車用品店でも容易に入手できるため、お客様は汎用品を求めて他店へ流れてしまいます。特に「ヘッドライトやストップランプ」のように整備不良に直結する部品が販売店に在庫されていない状況は、お客様の強い不信感や苦情を招きます。過去には全車種の電球在庫を指示したメーカーもありました。しかし現在はLED化が進み、網羅的な在庫維持と収益確保の両立は現場の大きな課題となっています。
3. レガシーシステムが招く納期計算の負担(メーカーに在庫がある場合)
メーカーに在庫があっても、レガシーシステムでは正確な到着日を案内できないことが多くあります。販売店スタッフは以下の要素を自ら考慮して到着日を計算しなければなりません。
① 締切時間の判定:
「金曜15:30の緊急注文だが、15:00の締切時間を過ぎているので出荷は明日になる」
② 拠点の不稼働考慮:
「土曜に出荷しても日曜は配送拠点(デポ)が不稼働、月曜は自店が休みなので配送は火曜になる」
③ 作業工程の逆算:
「火曜10:00に到着し、2時間の修理。ピットの空き状況を加味するとお渡しは18:00になる」
このように、システムで対応できない煩雑な調整業務が現場の大きな負担となっています。
4. 販売店からお客様への納期連絡業務の複雑化・長期化(メーカーに在庫がない場合)
メーカーに在庫がなく、さらにシステムによる自動納期回答が機能していない(あるいは信頼されていない)場合、販売店はお客様に対して非常に苦しい対応を迫られます。
① 曖昧な回答しかできないジレンマ
「いつ納入できる」という納期連絡業務の発生。お客様が「では連絡を待っています」とおっしゃる場合は、後日電話やSMSでご連絡するだけで済み、業務の増加は限定的です。
② お客様からの強い要望とプレッシャー
しかし、現実はそう簡単ではありません。
a. 「〇月〇日に車を使いたいから、それまでに直せないか」
b.「だいたいの日付でいいから、今すぐ修理日を教えてほしい」
c. 「代車を長く借りたくないので、できるだけ早くしてほしい」
このような切実な要望を受けると、販売店の業務負荷は一気に増大します。
5. メーカー側で発生する販売店への納期連絡業務
メーカーでは、販売店からの問い合わせに応えるため、極めて複雑なアナログ作業を強いられています。
① 複数受注が重なる場合の「引当パズル」
複数の受注で欠品が発生している場合、業務はさらに複雑化します。問い合わせのあった受注番号が「欠品リスト」の何番目にあるか(引当優先順位)を確認します。次に、ベンダーへの発注番号と1つひとつ突き合わせ、どの入荷分で引当できるかを特定します。その結果を口頭やメールで販売店に伝え、販売店はその回答を基にお客様とのアポイントを設定します。
② 複雑な優先ルールと人為的ミスのリスク
多くの現場では「国内優先か海外優先か」「特定の海外地域が優先」「オーダータイプによる優先」など、非常に複雑な優先順位ルールが存在します。レガシーシステムではこれらを自動判定できないため、スタッフが判断を行う過程で勘違いなどのミスが起きやすい環境にあります。優先地域のオーダーが後から入ることで既存オーダーの優先順位が下がり、納期が遅延するケースも発生します。これを担当者が把握していなければ、後述の「③信頼を揺るがす重大なクレーム事例」につながります。
③ 信頼を揺るがす重大なクレーム事例
納期回答の精度不足により、お客様にご来店いただいたにもかかわらず対応できないケースも起きています。その結果、販売店からメーカー社長宛てに「御社は一体どのように考えて仕事をしているのか。お客様満足度は口先だけで、満足度を大きく下げることを平気でしていないか?」といった強いクレームが届く事態も発生しています。
ベンダーの納入遅延を制御し、精度の高い納期を回答できる仕組みを構築することは、お客様満足度を維持するためのメーカーの重大な責務です。特に納期回答の精度は、お客様満足度に直結する重要な要素です。
過剰在庫が蝕む企業体力
欠品がお客様満足度やメーカーの評価を低下させることを確認しましたが、過剰在庫もまた以下のように企業の経営基盤を徐々に蝕んでいきます。
1. キャッシュフローの悪化
現金で保有すべき流動資産が部品在庫として固定されるため、キャッシュフローが悪化します。自動車メーカーにとって、補給部品在庫は全社棚卸資産の1%以下に過ぎません。さらにそのうち過剰在庫は約3%とごく少額であり、企業経営への直接的なインパクトは限定的です。ただし、これは自動車メーカーが過剰在庫や不活動在庫の削減に努めてきた結果です。過去に倒産した自動車販売会社の例では、補給部品在庫の半分以上が不活動在庫だったという事例もありました。しかしながら、現在の自動車メーカーの過剰在庫は少額とはいえ、過剰在庫を放置すれば、販売会社のように企業活動に支障をきたすレベルに達するリスクがあります。
2. 倉庫のスペース不足や作業工数の増加、保管費用の増加
過剰在庫による在庫増加に伴い
① 倉庫スペースが不足することがあります。
② スペース不足を補うため、外部倉庫の賃借・保管資材のリース・作業人員の増員が必要となり、追加コストが発生します。
③ 倉庫スペースが不足すると、1カ所で保管していた部品在庫を2カ所以上に分散せざるを得なくなります。その結果、保管スペース間の移動作業が増え、動線も長くなります。
④ 倉庫作業効率の低下は、運営全体に負担をかけます。通常倉庫内では約10%の余剰能力をもって稼働することで、受注明細数や入庫の変動に対処しています。この余裕が失われると、倉庫作業の処理能力が低下し、その日に要求された作業を完了できなくなる可能性が出てきます。当然、作業員の増員や残業増加などで作業効率低下に対応する必要がありますが、売上増加に貢献しない作業コストの増加は、極力回避すべきです。
3. 長期保管による品質劣化、それによる廃棄
湿気からくる錆などにより、5年以上の長期間保管によって効果を失うケースや、乾燥や経年によって成分が劣化し、本来の機能を発揮できなくなることがあります。
上記1~3の要因により生じた過剰在庫を廃棄する際には、最終的に「棚卸資産廃棄損」と「産業廃棄物処理費用」という2つのコストが発生します。つまり、欠品も過剰在庫も、現場課題を超えて企業の経営基盤を圧迫していきます。
もう1点、重要なポイントを確認しておきます。欠品と過剰在庫は、「相反するようでいて、同じ問題の裏表」です。需要予測を過小にすると欠品が発生し、過大にすると過剰在庫が生じます。特に過剰在庫は需要が少なく動きの鈍い補給部品で発生しやすいです。したがって、欠品削減と過剰在庫削減、いずれの取り組みも「正しい予測に基づく正しい発注」という方向性は共通しています。
課題解決のための欠品を測る指標、過剰在庫を測る指標とその分析
課題を定量的に捉えることは、問題解決の第一歩です。時系列で捉えることで、解決策の効果を継続的に測ることが可能になります。ここでは、一般的な欠品を測る指標と過剰在庫を見つける指標を提示します。
1. 欠品を測る指標として
① 欠品受注明細行数(※受注伝票の各明細を1行と数えます)
欠品の受注明細を行数で捉えたもので、例えば現時点で「1,521行」というような表現をします。目標設定でも同じ単位を使います。
② 欠品部品件数
①が受注明細行数なのに対し、部品件数で捉えたものになります。1つの部品に複数受注明細行が該当することがあるため①より少ない数字になるのが普通です。例:「1,333件」など
③ お待たせしているお客様の数
もし、受注オーダーがお客様単位で作られているときには、欠品が発生している受注オーダーの数をカウントすることで、何人のお客様をお待たせしているかを知ることができます。お客様満足度を捉えるのであれば、こちらの数字がより適切かもしれません。
④ 受注引当率
オーダーを受けた際にどれだけの受注明細行に引当できたかを%で表現します。10明細行のうち、9明細行に在庫を引当できたら90%になります。これは受注視点、すなわち注文に対してどれだけ応えられたかを示す指標です。
計算式:引当済明細数 ÷ 受注総明細数
部分引当であれば、その部分引当の割合もこの計算に含めます。
計算例:受注100行のうち、
- 90行:引当済
- 9行:未引当
- 1行:部分引当(10個注文→9個のみ引当)
→ 引当率 =(90+0.9)÷ 100 = 90.9%
⑤ 納期回答率
引当できなかった受注明細行数(上のケースでは9行)を母数として、何行の受注明細に対して納期回答ができているかを%で測ります。上記のケースで8行に納期回答ができたとすると、8 ÷ 9 = 88.9%になります。
⑥ 納期遵守率
納期回答した受注明細行数を母数として、納期回答日の3日前から当日までにお届けできた受注明細行を%で測ります。
2. 過剰在庫を測る指標として
① 在庫月数
売上に対して、在庫がどれくらいあるかを表した指標です。
在庫金額を月次の売上原価(※売上金額ではありません)で割った数値です。企業により異なりますが、最も効率の良い自動車メーカーは「1」より低くなります。日本の自動車メーカーの平均は約2~4か月です。在庫月数は購買方針と密接に関わるため、数値が大きいからといって一概に問題とは言えません。
なお、部品によっても異なるため、ABC分析(部品受注数パレート図)と組み合わせて分析することが有効です。ABC分析でカテゴリー「A」は受注が多いため、在庫月数が多くても、発注数計算が正確であればいずれ自然に低下していきます。カテゴリー「C」は受注が少ないため、廃棄などの在庫削減施策を講じない限り、在庫は自然に解消されにくいです。
② 在庫回転率
在庫がどれくらい効率よく回転しているかを求める指標です。計算式は「12 ÷ 在庫月数」で求められます。例えば在庫月数が2か月の場合、在庫回転率は6回になります。最もよく回転する部品は年間約36回転しますが、回転しない部品は0~1回になります。この回転しない部品が過剰在庫を持っている可能性が高いです。
なお、オイルやタイヤのように自社在庫を持たないものの、売上に貢献している部品は、これらの計算対象から除外します。また、生産終了品など将来需要を見越して一括購買済みの部品は、追加発注が発生しないため、別カテゴリーとして分類したうえで在庫回転率を算出します。
今回は欠品と過剰在庫がもたらす現場への影響と、それを測る指標を整理しました。次回は、欠品・過剰在庫はなぜ発生するのか、その構造を掘り下げていきます。