成長の原動力 | 2024年10月10日

デジタルIDのパワーと将来性

Juniper Researchによると、世界中で行われるデジタルID検証（本人確認）の回数は、2024年中に700億回を超えると予想されています。

これはまったく不思議なことではありません。デジタルIDは、アプリへのログインから、重要な医療サービスの利用、安全な金融取引の実行に至るまで、現在のデジタル環境でのやり取りや操作方法を形作り、私たちの日常生活に欠かせないものとなっているからです。

オンラインサービスの普及や、サイバー脅威の増加、規制の強化、インクルージョンとアクセシビリティの追求といった数々の要因が、現在の世界におけるデジタルIDの重要性を高めています。

オンライン活動の増加に伴うサイバー脅威の増加

デジタルの世界では、オンラインでのやり取りの際に、本人確認を求められることがよくあります。適切に確立されたデジタルIDは、オンラインユーザーにとって信頼できる検証ソースとなります。しかし、実装方法が適切でなければ、デジタルIDはプライバシーや個人情報を危険にさらしてしまう可能性があります。

悪意のある攻撃者が常に脆弱性を悪用しようとしているため、ID盗用や、詐欺、データ侵害がまん延しています。これらの脅威から保護するために、強力なデジタルIDシステムには、多要素認証や生体認証といった高度な技術が組み込まれています。

規制遵守はデジタルIDから

世界中の政府や規制機関は、デジタルIDの重要性を認識し、その使用を管理するための枠組みを制定しつつあります。

たとえば、欧州デジタルID規制（eIDAS 2.0）は、EU加盟国におけるデジタルIDと電子取引サービスのための一連の規則と基準を確立する、新たな規制の枠組みです。世界中の同様の規制により、組織には設計段階からプライバシー保護を組み込んだ強固なデジタルIDトラストフレームワークを導入し、デジタルエコノミーを強化することが求められています。

EU一般データ保護規則や、オーストラリアプライバシー原則、米国カリフォルニア州消費者プライバシー法などの規制では、厳格なデータ保護とプライバシー対策が義務付けられています。これらの規制は、法的基準を遵守し、ユーザーデータを保護し、多額の罰則金を回避するために、堅牢なデジタルIDシステムの導入を組織に求めています。

これらの規制を遵守するには、デジタルIDを透明かつ安全に取り扱い、ユーザー自身がその個人情報を管理できるようにすることも必要です。

インクルージョンとアクセシビリティを推進するために

世界の多くの地域では、個人の正式な身分証明書がないため、銀行や、医療、教育といった必要不可欠なサービスへのアクセスが制限されています。

この格差を埋めることができるものが、自分自身を認証し、デジタルサービスにアクセスするための手段を個人に提供する、デジタルIDです。

デジタルIDの潜在力をビジネスで活用

デジタルIDを組織の中心に据えることには、明確なメリットがあります。

たとえば、カスタマーエクスペリエンスの向上は、すぐに実感できるメリットの1つです。堅牢なデジタルIDシステムを使用することで、組織はシームレスでパーソナライズされた対話を実現できます。顧客は、ID検証を何度も行うという手間をかけずに、迅速かつ容易にサービスを利用できます。

また、デジタルIDシステムは企業の内部プロセス合理化にも役立ち、大幅なコスト削減と業務の効率化につながります。これは、ID検証の自動化により、手作業によるチェックの必要性が減り、人的ミスが最小限に抑えられ、サービス提供が加速されるからです。

デジタルIDは、新たな収益源とビジネスモデルも創出します。たとえば、安全なID管理に関する専門知識を活用できる企業は、「サービスとしてのID検証」を他の企業に提供できます。

これにより収益源が多様化するだけでなく、企業はデジタルID分野のリーダーとしての地位も獲得できます。またデジタルIDは、安全なオンラインマーケットプレイスや、デジタルウォレット、パーソナライズされたデジタルエクスペリエンスなどの、新しいデジタルサービスやプラットフォームの創造を可能にし、ビジネスチャンスや市場リーチを拡大します。

将来への意義

AIや、モノのインターネット（IoT）、分散型アイデンティティ（ユーザーが自らのデジタルIDを簡単かつ安全に管理できる環境）といった新たな技術は、デジタルIDを再構築し、認証とパーソナライゼーションに新たな可能性をもたらす力を秘めているため、デジタルIDはさらなる進化と変化を遂げると予想されています。

たとえば、何十億もの相互接続されたデバイスで構成されているIoTエコシステムでは、シームレスな通信とデータ交換を保証するために、デバイスごとに安全で信頼性の高い認証が必要です。デジタルIDは、IoTネットワーク内でデバイスとユーザーを認証するための、安全で拡張可能な方法を提供します。

各デバイスに固有のデジタルIDを持たせるという方法は、不正アクセスを防ぎ、データの完全性を確保します。これは、医療や、スマートシティ、産業オートメーションなど、デバイスの安全かつ信頼性の高い相互動作が最も優先される業界では特に重要です。

スマートホームでは、デジタルIDによって、許可されたユーザーとデバイスのみがホームオートメーションシステムを制御できるようになるため、セキュリティとユーザーエクスペリエンスが向上します。

AIシステムは、効果的に機能するかどうかがデータに大きく依存しています。デジタルIDは、このデータの正確性と安全性を確保するうえで重要な役割を果たします。デジタルIDは、認証および検証されたユーザーIDを提供することにより、AIモデルで使用されるデータ入力の完全性を維持できるようにしています。

これは、医療や、金融、パーソナライズされたマーケティングなど、AI主導のインサイトの精度が重大な意味を持つ、機密性の高いアプリケーションで特に重要です。

安心かつ安全に取引できるという確信を顧客に与えることができる企業は、顧客の信頼を勝ち取るうえで、競合他社より優位に立つことができます。これを安全に実現するには、システムとデータを保護するために継続的にIDを検証する、ゼロトラストの原則が不可欠です。

また、進化するサイバー脅威から身を守るためには、生体認証、多要素認証、行動分析を組み込んだデジタルIDソリューションがきわめて重要になります。これらのテクノロジーは、正規のユーザーだけが機密性の高い情報やシステムにアクセスできるようにすることで、データ侵害やサイバー攻撃のリスクを低減するのです。