2022/12/6 by Marek Jersak from Luxoft ※本稿はDXC Technologyのグループ企業であるLuxoftの記事を翻訳したものです。出典:The digital lifecycle revolution in a software-defined world 自動車業界は、ソフトウェアデファインドビークルやデータドリブン開発の方向に向かって進んでいます。電動化、コネクティビティ、自動運転、シェア型モビリティの分野で、車両の機能は急速に向上しています。物事が前進すると、それに伴う課題も見つかります。ソフトウェアデファインドビークル (SDV) の場合も、OEMやTier 1にとってSDV用のソフトウェアとデータを中心とした製品やサービスの開発、およびビジネスモデルの確立は大きな挑戦となります。それに加えて、市場においてこれまでとは異なる手法で研究開発に取り組んでいる新興のテクノロジー企業やソフトウェア企業の台頭により、従来の企業は、成功を維持するために自らを変革する必要に迫られています。 この記事は、ソフトウェアデファインドビークル(SDV) に関するシリーズの第2弾です。 複雑なトランスフォーメーション 自動車産業を変革するための課題は多次元的です。まずは、ユーザーの期待について考えてみましょう。誰もがデジタル体験に慣れてきていますが、問題は、その体験を車両にどのように取り入れるかということです。今日のデジタル体験は、特にモバイルデバイス、インターネットサービス、スマートホームにおいて非常にパーソナライズされています。誰もが個人として認識されたいと思っており、ユーザーが車両に期待するのも、そうしたパーソナルな体験です。電動化、コネクティビティ、自動運転、シェア型モビリティに関する体験を考え直す絶好の機会が到来したのです。ソフトウェアとデータは、機能やサービスがさまざまな自動車関連業界 (例えば、エネルギーエコシステムや都市部でますますスマート化するインフラストラクチャなど) にまたがっているため、自動車業界では車両に接続する数多くのデバイスを改良する機会が無数に生まれています。しかし、成功する上で最も重要な側面は、ソフトウェアとサービスに基づいて構築されたビジネスモデルが継続的な収益源に変換することです。さらに明確に言えば、成功するためには革新的な取り組みが必要です。なぜならユーザーは、所有している車両にすでに備わっている機能や付随しているサービスに対しては、新たに費用を支払おうとはしないからです。 上述したとおり、デジタル化が進む自動車の世界には、チャンスが拡大する一方で課題も数多くあります。さまざまな次元で開発が同時に進行するため、企業は次のような一連の課題について検討する必要があります。 進化するテクノロジーへの対応収益の再構築アジリティの向上エンジニアリングとITの連結ソフトウェアとデータの価値評価 — どのように収益化するか / 未来のエコシステムのあり方をどう想定するか / バリューチェーンはどのような形になると予想するか / 市場への新規参入者を最大限に活用するにはどうすればよいか法規制の対応とサイバーセキュリティの維持グローバルな多様性への対応 ソフトウェアの独立性の確立 業界を牽引する主力企業は、ソフトウェアとデータにますます注目しています。 目標は、車両製品のライフサイクルとはほとんど切り離された形で、革新的なソフトウェアや関連サービスを開発して展開し、車両とサービスを「最新」に保つことです。車両自体を販売するのとは別に、現場でそれぞれの有効性を監視して、どのようなパフォーマンスを発揮できるかを理解することが、それらを収益化する方法を学ぶための鍵となります。ソフトウェアは、車両の枠を越えてバックエンドならびに接続されたモバイルデバイスに移行し、大きなエコシステムを構築するようになります。そうなると、非常に効率的に稼働しソフトウェアを展開する工場のようなモデルが必要になり、そこで開発チームから更新されたソフトウェアを取得し、Over the air (OTA) を介して車両の安全性や定期的な機能の更新、または新しいソフトウェアおよびデータベースサービスの提供を適切な頻度で行うことができるようにします。このような仕組みが構築された車両を、業界では、ソフトウェアデファインドビークル (SDV) と呼んでいます。 では、SDVを構築するにはどうすればいいかを考えてみましょう。それには、克服すべき課題への対応を管理しやすいように、段階的に順序だてて進行させていく一連の作業を分けながら並行させるシステム思考のアプローチが鍵となります。私たちのこれまでの経験上、ソフトウェアとデータには、パートナーとサプライヤーのエコシステム、グローバル標準、適切な車両、クラウドバックエンド、開発プラットフォームなどが必要になることが分かっています。さらに、ソフトウェアの導入と監視のためのシームレスなプロセスを確立することも求められます。要するに、進化し続けるテクノロジー、開発中の機能、企業文化や組織面の変革、イノベーションに取り組む意欲、自動化を通じて品質、パフォーマンスや安全性をいずれも高く保つ厳格さなど、全体を総合的に見ていく必要があります。 車載アーキテクチャーの進化 まず電気/電子 (E/E) アーキテクチャーについて見てみると、ドメイン型アーキテクチャーからゾーン型アーキテクチャーへ、さらにそこからブレインスパイン型ネットワークへと移行していく傾向にあります。E/Eアーキテクチャーを進化させていくと、基盤となるハードウェアに依存せずにソフトウェアを柔軟に導入できるレイヤーをOEMが作成できるようになります。このようにハードウェアとソフトウェアを分離できるようになれば、さまざまな特徴と機能が異なるスピードで進化する、非常に柔軟性のある再利用可能なシステムを作り出せるようになります。しかし、これを実現するには組織の変革が必要です。なぜなら、自動車業界は従来、ビジネスケースから要件定義まで機能別に策定していき、その流れで専用ECUに組み込むハードウェアとソフトウェアのアーキテクチャーが構築されるように構造化されていたからです。そのような構造のままでは、SDVに求められる高いレベルの柔軟性を得ることはできません。 E/Eアーキテクチャーの1つ上のレイヤーである車載ソフトウェアプラットフォームも変化してきています。業界では多くのOEM.OSプロジェクトが見られますが、より標準化されたアプローチが必要であることは明らかです。第一に、OEM.OSプロジェクトのようなアプローチは多大な労力を要し、多くの冗長性を生み出すからです。さらに重要なのは、最も効率的で一貫性があり、広く採用されているプラットフォームが、機能やアプリケーションを開発している企業にとっては最も魅力的であることです。これにより、エコシステムが充実し、プラットフォームへの関心もこれまで以上に高まっていきます。したがって、OEMとサプライヤーにとって理想的なのは、ソフトウェア企業の大規模なエコシステムが非常に効果的にアプリケーションとサービスを展開できるソフトウェアプラットフォームができるだけ標準化されることです。これらのアプリケーションは、もはや車両自体に限定されず、クラウドやモバイルデバイスにまで拡張されています。このままいけば、アプリケーションとサービスを移行または部分的に別の場所で実行できるサービス指向型のアーキテクチャーがいずれ必要になります。 自動化 今後は、機械エンジニアや電気エンジニアが自動車業界で得意とする従来のエンジニアリング手法に加え、ソフトウェアとデータに関連する機能をそれぞれ全く異なる方法で追加し、実行できるようにしていくことが、非常に重要になってきます。これは、さまざまな忠実性のレベルのデータを取り扱いながら複数のフェーズに分けてソフトウェアを開発する、非常に緊密に統合され、高度に自動化されたプロセスになります。さらに、デジタルツインでのシミュレーションから完全に統合された本番環境の車両まで、複数のレイヤーでプロセスを自動化する必要があります。こうした機能を組み合わせることで、ソフトウェア開発とデータ駆動型開発の自動化が可能になり、それを実現させることが自動車業界のデジタルトランスフォーメーションの中核となります。 新しい次元への再構築 OEMとそのサプライチェーンは、既存の複数のチームから選抜した適切な人材を組み合わせて、当面のタスクを遂行できる新チームに再編しながら、従来の階層型組織からさまざまな特徴や機能に対応するアジャイルストリームへと移行する必要があります。但し、複数の分野に対応可能としながら効果的に協力できる企業横断的なチームを構築することは、変革を進める中で最も困難な取り組みの一つになるかもしれません。 アジャイルな作業方法では、従来の分散ツリーのさまざまな部分が段階的に成熟していく過程やスピードが異なることがあります。ソフトウェアの特定の部分を実装し始めることができたとしても、他の部分はまだ要件すら明らかになっていない、ということもあります。その結果、組織全体がツリーの形状のように枝葉が伸びるのではなく、開発が進んでいく側に偏っていきます。つまり、アジャイルコミュニティ全体が追随できるスプリントへと流れていくアジャイルストリームが形成されることになります。従って、こうした従来とは違う開発の流れを注視しながら、各開発プロセスに関わるすべての依存関係 (表に見える部分と見えない部分の両方) について理解を深め、それぞれを調整しながら、細部にわたって慎重に関係各者で絶えず意思の疎通を図ることが極めて重要になります。 グローバルなサービス企業の役割 Luxoftは、親会社のDXCとともに、ソフトウェアとデータを事業的にも文化的にも中核に据えている企業です。グローバルなコラボレーションや柔軟なチーム編成を日常的に行っている当社は、多次元マトリックスに基づいて組織されており、専門技術や知識を蓄積し、その領域の拡大に努めています。当社は、数百社を数える自動車業界およびその周辺業界のお客様と連携しながら、自動車業界が現在必要としているノウハウを当社の豊富な経験に基づいて共有しています。当社の強みは、最適な人材を絶えず惹きつけ、クライアントに新しいアイデアと経験を提供できることです。 この記事は、LuxoftのSuat Kusefoglu(アーキテクチャーおよびエコシステム担当アドバイザリ責任者)、Manish Singh Dhek(アーキテクチャーおよびエコシステム担当シニアアドバイザー)、Matthias Bauhammer(データおよび分析担当責任者)の寄稿文を基に構成されています。 DXCテクノロジー・ジャパン自動車業界向けソリューション&サービス Luxoft Automotive(英語) 著者について Marek Jersak 自動車アドバイザリ担当バイスプレジデント Marek Jersak博士 は、Luxoftの自動車アドバイザリの担当責任者として 、高度に自動化、コネクティビティならびにパーソナライズされたソフトウェア対応のデータドリブン車両の開発を推進し、車両主体のアーキテクチャー、プロセス、文化や組織をクラウドへ移行する際に生じるさまざまな変化をサポートできるようにするデジタルトランスフォーメーションに焦点を当てた取り組みに注力しています。Marekはそうした活動を続けながら、既存業界の枠を超えた新しいサービスを展開し、ドライバーにより多くの自由な時間を還元できるようにする持続可能なモビリティの未来に期待を膨らませています。
Marek Jersak 自動車アドバイザリ担当バイスプレジデント Marek Jersak博士 は、Luxoftの自動車アドバイザリの担当責任者として 、高度に自動化、コネクティビティならびにパーソナライズされたソフトウェア対応のデータドリブン車両の開発を推進し、車両主体のアーキテクチャー、プロセス、文化や組織をクラウドへ移行する際に生じるさまざまな変化をサポートできるようにするデジタルトランスフォーメーションに焦点を当てた取り組みに注力しています。Marekはそうした活動を続けながら、既存業界の枠を超えた新しいサービスを展開し、ドライバーにより多くの自由な時間を還元できるようにする持続可能なモビリティの未来に期待を膨らませています。