産業:

Manufacturing

場所:

日本

オファリング:

Modern Workplace

東洋エンジニアリングが、本社・総合エンジニアリングセンターの従業員およそ2,000名が使うPCの最新化において、先進的なPC導入・運用モデル「モダンデバイスマネジメント」を採用した。Windows AutopilotとMicrosoft Intuneの自動化技術を利用し、ユーザーの「セルフキッティング」によるPC更新を実施したことが注目すべきポイントだ。DXCテクノロジーは、グローバルでの自社導入を含むWindows Autopilot/Microsoft Intune活用の知見を活かし、調達から運用、保守、廃棄まで、PCのライフサイクル全体をas a Service(月額費用)モデルで支援している。

ベネフィット

5年先、10年先を見据えたPC導入・運用の最適化に向けたインフラを整備
セルフキッティングを前提にした効率的なPC運用体制へ移行
グローバル拠点で同等のデバイスマネジメントの導入を検討開始

PCのキッティングをユーザーが自ら実施

東洋エンジニアリングは、プラントや発電所などのEPC(設計・調達・建設)をグローバルで手がける総合エンジニアリング企業である。石油精製、石油化学、肥料製造などの大規模プラント建設に強みを持ち、燃料アンモニアや持続可能な航空燃料(SAF)などの次世代エネルギー領域でも大きな存在感を示している。「エンジニアリングで地球と社会のサステナビリティに貢献する」という同社のミッションは2009年に制定された。デジタル統合本部 ITサービス部 部長の丹下秀人氏は次のように話す。

「東洋エンジニアリングは、環境・エネルギーを重点領域に定めた新技術・事業開拓(グリーン戦略)と、プラント建設のさらなる進化を目指すEPC強靭化(ブルー戦略)の2軸で成長戦略を推進しています。カーボンニュートラルの要請に応える新技術の開発、新事業の開拓には特に力を注いでおり、燃料アンモニアのサプライチェーン構築では業界の枠を超えた取り組みをリードしています」

東洋エンジニアリングは、アジア、ヨーロッパ、北米、中南米に拠点を展開している。千葉県習志野市にある本社・総合エンジニアリングセンターは、技術開発とグローバルオペレーションを担う中核拠点である。

「2023年3月、本社・総合エンジニアリングセンターに所属するおよそ2,000名の従業員を対象に、『セルフキッティングによるPC最新化』を実施し、新しいPC運用体制をスタートさせました。従来は、統一スペックのPCを『キッティング済み』の状態で従業員に支給する方法を採ってきました。現在は、ユーザーがPCの仕様を選び、ユーザー自身がPCをセットアップし、必要なアプリケーションをインストールして業務に利用できる環境を整えるスタイルに変わっています」(丹下氏)

東洋エンジニアリングがPC導入・運用体制を大きく変えた背景には、設計部門を中心とする高性能PCへのニーズの高まりがあった。スペックの異なるPCの調達と資産管理、マスターイメージの展開と部門固有のアプリケーションインストールなど、複雑化する業務に対応するにはキッティングチームを大幅に増強しなければならなかった。丹下氏は次のように振り返る。

「PCライフサイクル全体の運用管理の効率化と外部委託を検討していく過程で着目したのが、国内でも導入例が出始めたWindows Autopilotの活用でした。私たちがDXCテクノロジーとともにセルフキッティング環境のPoCに着手したのは2022年初頭です。DXCは、AutopilotとIntuneをグローバルで大規模に自社導入しており、実践的な知見を提供してもらえるものと期待しました」

Autopilot とIntuneによるセルフキッティングの環境整備

Windows Autopilotは、PCの初期セットアップを自動化するクラウドサービスとして認知が高まってきた。Windows Autopilotを利用すれば、ユーザーはPCを立ち上げてネットワーク接続し、IT部門から支給されたMicrosoft Entra IDアカウントでサインインするだけで初期セットアップを開始できる。一方、IT管理者は、Microsoft Intuneから多数のPCに対する設定やアプリケーションの管理をクラウド経由で行える。

「Autopilotによる自動化は非常に魅力的ですが、PoCを通じて、私たちの環境で実際に利用するには解決しなければならない課題がいくつもあることが判明しました。私たちは、DXCと議論を重ねながら一つひとつ解決策を組み立て、Autopilotを効果的に実運用していくためのインフラとサポート体制を検討していきました」と丹下氏は振り返る。

DXCテクノロジーでは、PCやスマートフォンなど企業で活用されるデバイスに対し、ライフサイクル全体で運用管理を最適化するソリューションを「モダンデバイスマネジメント」と呼んでいる。数万台規模のPC運用を複数の国内企業から受託するなど実務経験は豊富だ。DXCテクノロジー・ジャパンの柴田承慧氏は次のように話す。

「Autopilot導入で最も重要なことは、ユーザーによるキッティングをスムーズに行えるようにするインフラとサポート体制の整備です。具体的には、専用のクラウドアクセス環境、安全なキッティング手順を示したユーザーマニュアル、新しいサポートデスクの提供が基本となります。東洋エンジニアリング様では、部門ごとに異なる専用アプリケーションのインストールをユーザー自身が行うことも要件でした」

DXCテクノロジーの守備範囲は、Windows Autopilot/Microsoft Intune環境の設計・構築・運用と技術支援にとどまらず、PCの調達や資産管理、OSやMicrosoft 365のアップデートにも対応するサポートデスクの運営まで広範囲に及んだ。そして、DXCテクノロジーからワンストップで提供されるモダンデバイスマネジメント環境には、as a Service(月額費用)モデルが適用されている。

わかりやすく使いやすいユーザーマニュアル

Windows Autopilotを利用するためのクラウドアクセス環境は、デジタル統合本部 ITサービス部のリードで進められた。東洋エンジニアリング固有の課題を解決しながら、ユーザーが安全にキッティングを行うための手順が繰り返し確認され、使いやすさを考慮したユーザーマニュアルも万全に整えられた。

「2023年3月、Autopilotの実装を完了し新しいPCの配布が始まりました。1週間に200~400台のセルフキッティングを実施するようスケジューリングし、ネットワークへの負荷を分散させる手順を採りました。DXCでは、これに先立ってサポートデスク内に『ハイパーケア』と呼ばれる専用窓口を用意し、ユーザーからの問い合わせに備えました」とDXCテクノロジー・ジャパンのテクノロジーコンサルタント 石川蔵輝氏は話す。

Windows Autopilot/Microsoft Intuneを活用する「サポートデスク」と「ユーザー」それぞれの手順を整理すると、おおよそ次のようになる。

DXCサポートデスク

  • PCベンダーから事前入手したハードウェアIDをMicrosoft Intune上で登録
  • 各種デバイスポリシーの適用を行い、基本設定を割り当て
  • 個別アプリケーションのMicrosoft Intuneポータルサイトへの掲載
  • サポートデスクの窓口でユーザーにPCを手渡し

■ ユーザー

  • 受領したPCの電源を入れオフィスの「専用LAN」または自宅インターネット環境に接続
  • ITサービス部から提供されたMicrosoft Entra IDアカウントでサインイン
  • Windows Autopilotにあらかじめ設定されたOOBEプロセス(Out of Box Experience:箱から取り出し、使用可能にするまでの一連の手順)により、クラウド経由で初期セットアップを開始
  • 各種デバイスポリシーの適用や汎用アプリケーションのインストールなどを自動実行
  • Windows Autopilotで配信が困難なアプリケーションや、個別に必要なアプリケーションをMicrosoft Intuneポータルサイトから入手し手動でインストール
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実際にセルフキッティングが開始されると、2時間程度でセットアップを完了させたユーザーがいる一方で、事前検証で確認できなかった不具合に直面したユーザーも少なくなかったという。ITサービス部とDXCテクノロジーは、新たに導入されたサービスデスクシステム上で情報を共有しながら粘り強く問題を解決していった。丹下氏は次のように話す。

「現時点の手順では、AutopilotとIntune、Entra IDが連携し、各種デバイスポリシーの適用や汎用アプリケーションのインストールといった初期セットアップが自動実行されます。ただし、部門単位で使用している専用アプリケーションのダウンロードとインストールなどには手作業を残しており、この段階で作業が滞ってしまうケースが見受けられました。私たちは新たに顕在化した課題を着実に解決しながら、DXCとともに現場の知見を蓄積していきました」

デジタル統合本部 ITサービス部の佐藤結希映氏は、Windows Autopilot/Microsoft Intuneの活用開始に際してユーザー部門との折衝やスケジュール調整を行いながら、ユーザーマニュアルの制作にも尽力した。

「キッティングを初めて体験するユーザーが大半でしたのでマニュアルは非常に重要でした。ITリテラシーにもユーザーごとに大きな差があります。私たちはDXCと協力し、ユーザーの視点で大事なポイントを絞り込みながら、わかりやすく使いやすいマニュアル制作を目指しました」(佐藤氏)

中長期の視点でモダンデバイスマネジメントの成果を追求

「Autopilot/Intuneというインフラ整備によって、2,000台規模のPC導入・運用にかかるコストを段階的に削減していくためのスタートラインに立つことができたと考えています。重要なのは、将来にわたってPC導入・運用を効率化していくためのプラットフォームが完成したという事実です。ここから、着実にビジネスの成果につなげていきたいと考えています」と丹下氏は話す。

本プロジェクトでのインフラ整備が新しい展開を見せる可能性も出てきた。デジタル統合本部 ITサービス部 担当部長の五井野治香氏は次のように話す。

「Autopilot/Intuneによるキッティングのスキームは、海外の事業拠点でもそのまま活用できるものです。まだ構想段階ですが、運用のノウハウとともにグローバルへ展開したいと考えており、拠点のIT部門も興味を示してくれています。当面の目標は、セルフキッティングの精度を高めてユーザーの満足度を高めることです。DXCには更なるサポートを期待しています」

新入社員向けにセルフキッティングの説明会を開催するなど、新しい仕組みを定着化させるための取り組みも始まっている。東洋エンジニアリングのモダンデバイスマネジメントモデルは、同じ課題に直面している多くの企業に重要な示唆となるだろう。丹下氏は次のように結んだ。

「Autopilot/Intune導入を起点とする新しいPC導入・運用モデルへの移行は、私たちにとってはPC運用ベンダーの切り替えを伴うチャレンジでもありました。慎重に検討を重ねた上でDXCを本プロジェクトのパートナーに選定しましたが、その判断に間違いはなかったと思っています。新たに整備されたインフラとサポート体制をフルに活用して運用の知見を獲得し、ユーザーにとってはフルオート、私たちの立場ではゼロタッチキッティングの世界を目指していきたいと思います。DXCには提案型のサポートとともに、継続的な技術支援を期待しています」