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2022/8/29
by 吉見 隆洋 / 曽我 光厳
 

テレワークが普及した昨今、遠隔地から非対面・非接触で業務を行うスタイルが多く採用されています。それに伴い、現実世界と仮想世界を融合させたXR(エクステンデッド・リアリティまたはクロス・リアリティ)技術を業務に取り入れる動きが加速しています。今回は、最先端デバイスとして注目される「Microsoft HoloLens 2」の活用事例を踏まえ、業務における活用方法や注意点を紹介します。

 

リモート業務の普及とともに広がるXR技術の活用

コロナ禍で、多くの業種で半ば強制的にテレワークが始まりました。オンラインツールの整備・拡充とテレワークへの“慣れ”から、今では「リモートの方がむしろ効率がよい」と考える人も珍しくありません。既にテレワークを勤務形態の基本として、オフィスの規模を縮小させる企業も出始めています。

一方、リアルのコミュニケーションを重視する企業では、状況に応じてオフィスワークの体制に戻したり、テレワークとオフィスワークを組み合わせた「ハイブリッド」スタイルを取り入れたりするところも増えています。働き方の多様化に伴い、どの企業も、取引先や業務内容に合わせ柔軟に対応できる環境を用意する必要があります。間違いなく言えそうなのは、ニューノーマル時代を迎える今後、以前の働き方やビジネス環境には戻らない、不可逆の変化であったということです。

このような背景のなか、従来はどうしても現場に出向かなければならなかった業務についても、リモートで対応できるように模索する動きが活発になっています。特に最近は、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)などのXR技術を活用し、遠隔地にいながらにして非対面・非接触で業務が行える仕掛けが登場しています。その1つに、Microsoftの最新デバイス、HoloLens 2の活用があります。

HoloLens 2は、いわゆるスマートグラス、ヘッドマウントディスプレイと呼ばれるカテゴリの製品です。実際にはメガネのように頭部に装着するタイプのウェアラブル・コンピュータの一種です。目の前に映し出されている現実世界の映像にホログラム(3D映像)など仮想的な映像情報を重ね合わせ表示・操作できるという特長があります。DXCテクノロジー・ジャパンがご支援した中でも適用領域の広い事例を踏まえ、活用に際して注意すべき3つのポイントを整理してみます。

 

現地スタッフのみでトラブル対応した製造業の事例

● コロナ禍でトラブルへの出張対応が困難に

製造業の生産現場では、製品の組み立てや品質検査に使用する多種多様な製造装置・機器が稼働しています。A社の設備管理部門は、これらの製造装置・機器が正常に動作しているかどうかを常時監視し、必要に応じて保守メンテナンスを担当しています。定常的な点検作業などは生産現場に常駐するメンバーが担っています。何らかのトラブルが発生した時には、他拠点にいる専門知識・経験を持った専門家が生産現場に出張し、現場メンバーの傍で指示・指導を行いながら対応に当たっていました。

しかし、コロナ禍によって遠隔地にいる専門家の出張が制限され、トラブル発生時の支援が難しくなりました。そこでA社は、遠隔地からリモートで作業を支援できる仕掛けを導入することにしました。DXCテクノロジー・ジャパンは、HoloLens 2とDynamics 365 Remote Assistを使った仕掛けを提供しました。

 

● MRアプリケーションによって的確な指示が可能に

MicrosoftのDynamics 365 Remote Assistは、HoloLens 2を活用してリアルタイムに情報連携しながら作業を行うMRアプリケーションです。HoloLens 2を装着した現場スタッフが見ている映像を共有し、遠隔地にいる専門家がPCやスマートフォンのMicrosoft Teamsを通じて指示・指導できます。「その右側にあるレバーを操作する」といった指示が、画面上の矢印や鉛筆で注釈を付ける機能を使うことで的確に伝わります。

この仕掛けを導入した結果、A社では専門家が現地に出張しなくても現場メンバーだけでトラブルに対処できるようになりました。定常的な点検作業時に不明点があった際にも、Dynamics 365 Remote Assistを通じてメンバーに直接質問できるようになり、作業スピード・効率・品質が格段に向上しました。また、トラブル発生時の専門家の出張に必要な時間や費用が節約できるという利点もあります。

 

● トレーニングにも有効なDynamics 365 Guides

生産ラインで製品組立作業を担当するスタッフのトレーニングに利用する事例もあります。ここでは、HoloLens 2の映像にホログラムのガイダンスを重ねて表示できるDynamics 365 Guidesが活用できます。従来はベテランが付いて、マニュアルを見ながら行っていたOJTを、マニュアルで手をふさがずに安全に効果的なトレーニングが行えるようになりました。

Web上に公開されている多くの事例でも、製造業向けには、概ね①遠隔での支援と②トレーニングに大別されるようです。

 

仕掛けを導入するときに注意したいこと

1.まずは実機で体験してみることが一番の早道

XR技術全般について言えることは、「文面や資料での理解と実機での体感では大違い」ということです。どれだけ想像力がたくましくても、実機での体感は机上の(文章や資料などを通した)印象とは異なります。我々も社内外で説明する際は、できるだけ実機で体感してもらうようにしています。何ページもの資料よりも、たった10分の体験の方が、理解と納得につながります。

XRの文脈で良く使われる「没入感のある体験(Immersive experience)」という言葉は、表現の難しい体験を指す新しい言葉ですが、言葉だけではまず伝わりません。しかし、実際に体験すると、まさに言葉の含意がわかるのです。実体験後、我々が良く聞く言葉は、「未来感が凄い」です。映画や小説の世界で想像していた未来が、手元で実現されている、という感想なのだと思います。

Dynamics 365 Remote AssistやGuidesの標準的な設定レベルで、比較的簡単な業務シナリオを試してみることができます。体験することで、更なる要望(こんなことはできる?)や期待(こんなことがしたい!)を、より具体的に考えられます。机上だけでは、要望や期待について互いに何を言っているのかわからない、いわゆる「空中戦」になりがちです。検討の際は、実機での体験を強くお勧めします。

 

2. 導入時の設定はリモートでは難しい

DXCテクノロジー・ジャパンでは、これまでにいくつかの遠隔業務支援の仕掛けの導入・構築を手がけました。最初の設定作業は遠隔での実施が難しいため、現地で行うことをお勧めしてきました。実際の現場で、作業場所の広さや道具、遠隔支援したい作業を理解することが必須であるためです(装置・機器によってはセキュリティ上の問題から現場の写真や動画を撮影できない場合もあります)。

特にDynamics 365 Guidesでは、装置・機器の「遮蔽物のない、見えやすい位置」に原点となるQRコードマーカーを貼る必要があります。貼った位置が不正確だと、何度もやり直すことになります。また、認識の精度は数センチ程度が限界です。より精確に見たくても、見る方向などで装置・機器の認識がずれる場合もあります。「動かせる」装置・機器にQRコードマーカーを貼る場合は、別のトレーニングシナリオにした方が良いでしょう。

このように、最初の設定作業は、お客様と我々が、現地で一緒に進めることが肝要です。遠隔支援導入なのに、この作業自体は遠隔ではできないのですね、と、笑って仰っていたお客さまもいらっしゃいましたが。

 

3.導入だけでなく、継続的にどう改善・運用するか、に配慮する

XRは、導入時の新しい体験が強烈な印象を残します。その一方「凄い」「面白い」といった評価に終始してしまいがちです。業務の改善に資するよう、冷静に評価することも重要です。

「HoloLens 2を使えばどんな業務支援もリモートで行える」わけではないことに、注意が必要です。例えば、HoloLens 2にはセンサーが手を認識する「ハンドトラッキング」機能が備わっていますが、手が隠れる位置では当然認識できません。いわゆる「匠の技」と呼ばれるような、専門家の感覚的な作業を再現することも困難であると(現時点では)考えるべきでしょう。HoloLens 2とDynamics 365 Guidesの設定レベルで実現できる使い方としては、初歩的なトレーニングや作業手順の説明、チェックリストに基づいた作業あたりが妥当です。

作業支援コンテンツを適切な「粒度」に分解することも、業務改善にとって重要です。例えば、Dynamics 365 Guidesには、作業者が各ステップにかかった時間を計測し記録する機能があります。このデータを分析ツールのMicrosoft Power BIで集計・グラフ化して、業務改善のしやすい単位に分解するのが一つの方法です。

HoloLens 2はDynamics 365 Remote Assistの使用中に高温になるため、長時間の使用が難しいという点もあります。必要なときに装着し、不要なときはスリープするといった運用方法も考える必要があります。

HoloLens2を強力なデバイスとして、遠隔業務の支援や効果的なトレーニングに活用していくには、こうした点への配慮が必要です。

DXCテクノロジーはHoloLens 2をはじめ、さまざまなスマートグラスを用いたエンタープライズXRサービスを提供しております。その一つは、DXC Remote Expert®というSaaS型のコミュニケーション基盤です。遠隔の専門家が現地からのリクエストに対応し、関連資料を残しておけます。豊富な実績を通して蓄積した知見により、基幹システムとの連携などもご支援いたします。

今後、発展が期待されるXR導入・活用を検討しているお客様は、是非、DXCテクノロジー・ジャパンへお問い合わせください。

 

About the author

吉見 隆洋(Takahiro Yoshimi)
DXCテクノロジー・ジャパン CTO。製造業向けサービスならびに情報活用を中心に20年以上IT業界に従事。業務分析の他、各種の講演や教育にも携わる。東京大学大学院 工学系研究科 博士課程修了。博士(工学)、PMP

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曽我 光厳(Mitsuyoshi Soga)
DXCテクノロジー・ジャパン クラウドアプリケーションサービス Technology consultant。3Dコンテンツ業界にてエンターテイメント向けVR、訓練シミュレータなどの開発を経験後、DXCテクノロジー・ジャパンにてXR導入支援に従事。

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