2024/07/29
by 鈴木 浩一

 

自社内でITSM(ITサービスマネジメント、ITサービス管理)ツール導入プロジェクトを立ち上げて取り組んだ後に、「高価なシステムを入れたのに、特に何も変わらなかった。見直したい」というような相談がよく寄せられます。なぜ、うまくいかないのでしょうか。

これまでITSMツール導入に数多く携わってきた経験をもとに、ベストプラクティスをご紹介します。

 

ITSMツールは目的があいまいだとうまく機能しない

先に結論をお伝えします。ITSMツールがうまく機能していないという会社からお話を聞いて理由を探ってみると、ついつい「ツール」そのものに注目してしまいがちで、「目的」があいまいなまま導入してしまっているケースが少なくありません。ITSMツールの導入を成功させるには、まず「何のためにツール導入するのか」、「なぜインシデントの管理プロセスを見直すのか」といった「目的」を明らかにすることが重要です。

ここからはどのような順序でツールの導入を進めるべきなのかを整理します。重要なのは実装する手前の流れです。

1.導入の背景と理由を明らかにする

まずは現状のITサービスマネジメント上の問題が何なのかを、はっきりさせておきます。そのためにはIT組織の事業計画を読み直して、「組織の目的、目標は何か」という原点に立ち返ることから始めましょう。

その上で、その目的や目標を妨げる課題や問題点を整理します。よくあるのは次のようなテーマです。

  • 業務効率化……業務効率が下がってきている/業務が増えているが人員は増えない
  • 業務品質向上……障害が減らない、重大障害が増加傾向にある/クレームが多い・増えた/変更の失敗が増加傾向にある
  • 業務可視化……現状の業務効率や品質が良いのか悪いのか分からない/プロセスがチームごとにバラバラでチーム間の統制が取れない

この段階をしっかりと踏むことで、ツールの導入だけでなく仕事の仕方を見直すことで解決できるものも見つけられますし、重要度や優先度を付けられるのでITSMツールに求める機能やカスタマイズの判断もしやすくなります。

2.ツールで解決できる範囲を明らかにする

次に、整理した課題や問題点の解決方法を、ITSMツール以外にも視野を広げた上で、どの範囲にツールを充てるのかを考えます。ツール以外とは、例えば「プロセスの可視化が必要」、「管理項目を整理することが必要」といったことです。

ツール導入に期待することとしては、効率化や可視化などがあります。例えば「インシデント管理の業務効率や品質の問題があるのは、記録がバラバラに散在しているからだ」と課題が明確になっていれば、それを実現するためには一元管理できるデータベースの整備が必要だと判断ができるため、そのための解決策としてITSMツールが有効だという結論にいたるでしょう。また、ユーザー体験や満足度の向上を目指すのなら、サーベイ機能などを持つITSMツールが選択肢となります。

このようにして必要な機能が洗い出されると、おそらくITSMツールの候補が3つ程度に絞られているのではないでしょうか。それらを意識できる企業であれば、自社に適したベストなツールを選定することができます。その方が自社の文化や好みも加味できるので選定で大きな手戻りが発生しづらく、また既に機能の優先順位も付けられているため、あらゆる課題を無理にそのツールで解決しようとしなくなります。

一方でITSMツールにあまり馴染みのない組織の場合は、必要機能の洗い出しの後で業務プロセスを可視化しながら、外部のコンサルなどの協力を得てツールを選ぶことが少なくありません。

3.業務プロセスの可視化

続いては、ITSM業務を可視化、文書化した上で(もしくはしながら)ツールの選定を進めます。

効果的な実装のためには、ここで自分たちの業務(フロー、手順)がどうなっているのか、そしてどこに問題があるのかを明らかにしておく必要があります。その上でベストプラクティスとのFit&Gapを実施することで、ツールだけでは解決できない部分も浮かび上がってくるため、それを新たにプロセスに組み込むことで、ツール導入の効果を増大させられます。ツールでは解決できない例としては、定期的なKPI評価がありますが、これらに必要なデータの集計はツールによって効率化が可能です。

業務の可視化は、手段はExcelでもホワイトボードでも構いませんので、「誰が」、「どのタイミングで」、「どんな作業を」、「どんな順番で」というふうに分解して、誰が見ても自分たちの仕事が分かる状態にしておきます。

チーム内では共有できていたとしても、隣のチームのやり方とのギャップが分からなければ、結局、自分たちのフローを正とするツールを選んでしまいがちです。みんなが同じツールに乗っていなければ、どちらが優れているのか、どちらに問題点があるのかを定量的に比較できないため、互いに改善活動につながりません。

例えば、復旧時間の改善が目的だった場合、同じSLAという物差しを使った比較ができないのなら、ExcelからITSMツールに置き換えただけに過ぎず、「ツールを入れたのに変わらない」という状態になってしまうのです。

目標と解決策にもとづいた必要な機能の洗い出しと、この業務の可視化によって、自社にマッチしたツールを選べるようになります。マッチしないツールを選んでしまうと効果が出ないケースがあります。たとえServiceNowのように機能が多彩なツールを選んだ場合でも、その機能を使い倒すことができないのでもったいないですし投資対効果も低くなります。

業務の可視化のための分析で役立つのが、ITサービスマネジメントにおけるベストプラクティスをまとめたITILと、「3つのP」です。ITSMにおける3つのPとは、Process(プロセス、手順)、Product(プロダクト、ツール)、People/Person(組織、人)のことです。この3つのPの観点で、抜け漏れなく(MECE)、現状を明らかにしましょう。ここではツール以外で解決すべき課題も抽出し、別途改善を進めていきます。

次に、候補となっているツールの機能や仕様について理解を深め、何をどこまで解決できるのかを明確にします。これは無理のない実装を計画するためにも重要なことです。最初に目的をはっきりさせたことと併せて、ツールに求める機能で「必須」、「重要」なものが明らかになるため、現状プロセスをそのままツールに乗せるために無理やりカスタマイズしてしまうリスクを避けられます。また、リソースが限られる中で、重要な課題に効果的な機能から優先して実装することができます。

事前準備を行えばITSMツールを有効活用できる

以上が、ITSMツールの導入を成功させるための、実装の手前までの流れです。これらを実践するには、実業務に詳しい担当者やリーダーの参画が欠かせません。

また、プロジェクトチームの編成においては、できればITSMの知見があるメンバーをアサインする、あるいは広いITSMの知見と他社事例を知る専門家の協力を得ることが望ましいと言えます。

専門家としての協力をSIerやベンダーに依頼するのも1つですが、候補となった製品での実績があるベンダーであれば心強いでしょう。ただし、業務を無理やりツールに乗せようとしないように、中立的な判断が可能な立場であることが重要です。

DXCテクノロジーは、ServiceNowを中心としたITSMツールについての知見と経験に基づき、お客様に寄り添ったサポートをご提供します。独立したITサービスプロバイダーとして、ツール導入の有無も含めた中立的な判断が可能です。ITSMツールに関して少しでもお悩みがある方は、お気軽にお問い合わせください。

 


About the author

鈴木 浩一(Koichi Suzuki)

テクノロジーコンサルティング事業部
テクノロジーコンサルタント

中堅Slerを経て、DXCテクノロジーに入社。金融系、キャリア系、メディア系など、多数の顧客環境においてインフラ運用、ITILベースの運用プロセス設計、運用関連製品導入などのプロジェクト経験がある。

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