1990年代以降、多くの大企業が、人件費が比較的低い国・地域のサードパーティにビジネスプロセスやサポート業務、コールセンターの運営、ITサービスなどをアウトソーシングしてきました。高速データネットワークの接続によって、こうした業務が本社とほぼ同じ速さで、はるかに低いコストで実施できるようになりました。

しかし、アウトソーシングには、コンプライアンスやサイバーセキュリティ、プライバシーなどの課題があります。一部の企業は、こうした業務を社内に戻すことで対応してきました。そして今では、ルールベースのプロセスをAIシステムとそのインテリジェントアルゴリズムに割り当て、AIを活用することで、スタッフを新しい(多くの場合機械的な)業務から解放できるようになりました。私たちはこの新しい発展を、アウトソーシング2.0と呼んでいます。

AIへの業務アウトソーシングのメリット

AIシステムへのアウトソーシングは、数多くの価値あるメリットをもたらします。これらのシステムの動作は、スピード、精度、規模ともに強化されています。学習機能が組み込まれたAIシステムの場合は、パフォーマンスは時間の経過とともにさらに向上します。一部のAIシステムでは、自然言語処理(NLP)を利用することで、機械と人間の作業者の間で直感的なコミュニケーションが可能になっています。また、堅牢なセキュリティ機能を備え、組織の貴重なデータ資産が保護されます。そして、人間の作業者とは異なり、AIシステムは24時間365日稼働できます。

アウトソーシング2.0に適している業務は、予想以上に多く存在します。McKinsey & Co.の予想では、生成AIなどのテクノロジーによって、従業員の現在の労働時間の60~70%を占める業務を自動化できる可能性があります。

製造業から小売業、ビジネスサービスまで、ほぼすべての業界が何らかの形でアウトソーシング2.0のメリットを享受できます。AIの能力が拡大し続けるにつれて、より多くの業界やビジネスプロセスがAIを導入するようになるでしょう。

変化するAIの状況

アウトソーシング2.0は、AIの研究・開発拡大によって可能になりました。大規模なデータセットを分析してインサイトを引き出す機械学習や、人間の言語を理解して応答するNLP、画像や動画のオブジェクトを分類するコンピュータービジョン、クレジットカード詐欺などの詐欺を検出するパターン認識などのイノベーションが生まれる結果につながったのです。これらの新しい機能により、さらに多くの組織がさまざまな業務にAIを活用するようになりました。

ビジネスプロセスやITヘルプデスク、カスタマーサポート、その他の一般的なアウトソーシング業務を担う能力を持つAIの応用範囲は、チャットボットから、パーソナライズされたレコメンドエンジン、データ分析に至るまで、計り知れないものがあります。AIベースのツールは、大規模に休みなく稼働できるだけでなく、特定の作業では人間に匹敵するか、人間をも上回るパフォーマンスを発揮できます。テクノロジーが進化し続けるとともに、AIはさらに多くのプロセスを強化し、自動化できるようになるでしょう。

製造業から小売業、ビジネスサービスまで、ほぼすべての業界が何らかの形でアウトソーシング2.0のメリットを享受できます。AIの能力が拡大し続けるにつれて、より多くの業界やビジネスプロセスがAIを導入するようになるでしょう。

このようなAIイノベーションにより、AIテクノロジーの導入はますます広がっています。現在、Google、Microsoft、Amazon Web Services(AWS)などの大手テクノロジー企業はクラウドベースのAIサービスを提供し、活発な開発を支えています。2022年にMcKinseyが調査した組織の半数(50%)がAIを利用していると回答しており、2017年のわずか20%から大きく増加しています。同じ調査で、組織が利用しているAI機能の平均数は、2018年の1.9機能から2022年には3.8機能に倍増したとの回答が得られています。

このような活況により、大きな市場が生まれています。市場調査会社であるIDCは、AIソフトウェアへの支出が2022年から2027年にかけて年平均成長率(CAGR)30%超で増加し、世界全体の総額が2,510億ドルに近づくと予想しています。

生成AIはさらに劇的な成長を見せています。これらのシステムの中で最も有名なOpenAIのChatGPTは、2022年後半に公開され、すぐに月間ユーザー数が推定1億人に達しました。最近、OpenAIは、週間アクティブユーザー数が1億人に増加したと発表しました。

AIが適合するビジネス領域の判断

アウトソーシング2.0のメリットを享受したいと考えているビジネスリーダーにとって効果的な手段は、まず組織に次のようないくつかの重要な問いを投げかけてみることです。

  • 自社のプロセス/サービスのうち、どの部分をAIにアウトソーシングし、どの部分を人間の作業者に任せるべきか。競争力を高めるために、自動化できる作業はどれか
  • 人間とAIの共同作業を最適化するために、どのように業務を再構成すべきか。また、各作業を最適な状態で実行するには、人間のどのような能力がAIに欠けているか
  • 従業員のリスキリングや再編成が必要か。必要である場合、スタッフの士気と企業文化への影響を最小限に抑えるにはどうすればよいか
  • 新しいソフトウェア/ハードウェアの要件は何か
  • AIを統合するために、どのような初期費用が必要か。投資収益率(ROI)はどの程度期待できるか。損益分岐点に達するまでの期間はどのくらいか
  • データプライバシーや、アルゴリズムのバイアス、モデルの精度に関連するAIリスクをどのように管理すべきか
  • 自組織にAIのプロセスと結果を監視するAIフレームワークと管理組織があるか。存在しない場合、これらを確立するには何が必要か
  • AIの導入を加速するために提携できるITベンダーはあるか

AIに関する懸念への対応

上記の問いに慎重に答えることで、組織は次のように戦略的にAIを適用し、大きなメリットを享受できるようになります。

  • 創造性や共感力、共同作業、戦略策定、複雑な問題解決といった代わりがきかない能力に人間の労力を集中させる。正確性、忍耐力、スピード、スケーラビリティを必要とする作業にAIを活用する
  • AIを統合しながら、従業員の不安を最小限に抑えるために、変更管理とリスキリングに投資する。人間のスキルの代替ではなく、支援としてAIの役割を促進する
  • 限定的な概念実証を通して潜在的なROIを示しながら、機能を構築して社内の支持を得る
  • 適切な領域にスタッフがAIを導入できるように、重要業績評価指標と奨励策を調整する。プロセスを継続的に監視して、新しい自動化の機会を探す
  • 信頼できる安全なAIベンダーと提携してリスクを軽減する

ピラミッド型からダイヤモンド型へ

AIを活用したアウトソーシング2.0に移行する組織が、さらに大きな成功を収めるためには、新しい組織構造に移行することもひとつの選択肢です。

現在、大半の組織構造はピラミッド型です。ピラミッドの土台部分には、最前線でビジネスを支える多数の従業員がいます。従業員は、上層の管理者や幹部を支えています。ピラミッド内において、情報は下層から上層へ流れ、決定事項や指示は上層から仮想へ流れます。言い換えると、権力と権限は上部に集中しています。

しかし、近い将来、AIにアウトソーシングする多くの組織は、ダイヤモンド型の構造に移行するでしょう(図1を参照)。AIが反復的な作業や支援を行ったりするようになると、従業員は新たなスキルを習得して価値の高い業務に注力し、深い専門知識が求められるポジションで活躍できるようになります。従来型のアウトソーシングでも、数多くの重要業務にサービス専門企業のスキルを活用することで、組織がコアビジネスに集中できるようになるという面がありましたが、この点でAIとサービス専門企業には共通するメリットがあります。

AIが反復的な作業や支援を行ったりするようになると、従業員は新たなスキルを習得して価値の高い業務に注力し、深い専門知識が求められるポジションで活躍できるようになります。

ダイヤモンド型モデルでは、権力と権限がより均等に分配されます。また、AIへのアウトソーシングに適さない作業においては、創造性とイノベーションを発揮することがいっそう重要ですが、一部の管理職のあり方を最適化することで、情報の流れをスムーズにし、意思決定をより迅速に行うことができます。

図1. AIを活用したアウトソーシング2.0における新しい組織構造

DXCの提供するサポート

アウトソーシング2.0に移行するためには、信頼できるベンダーによるサポートが必要です。

ビジネスプロセスまで、AIに関する幅広い知識を蓄積しています。また、企業の最も重要なビジネスシステムの運用を支援する優れたスキルも備えています。

DXCの経験豊富な専門家は、お客様や業界パートナーと協力して、企業の成長のためにAIを実用化・活用することを目指しています。当社がご支援するすべての取り組みについて、責任あるAIフレームワークとベストプラクティスを適用します。新しく利用可能になったデータに対応したり、AIによる回答をさらに洗練化したりするために、当社では継続的な管理や改善も行っています。

お客様の組織がアウトソーシング2.0の数多くのメリットを実現する上で、DXCのAIへのグローバルな取り組みがどのように役立つかについて詳細(英語)をご確認ください。また、お気軽にお問合せください。


著者について

Carl Kinson 
DXC Technologyのテクノロジー戦略およびイノベーション担当ディレクター兼ジェネラルマネージャーおよびDXCフェロー。25年以上の経験があり、新興か既存かにとらわれることなくテクノロジー、テクニック、スキルを積極的に取り入れることで、企業が潜在能力を発揮する支援を行ってきた実績があります。ビジネス目標に沿った、業界をリードするITソリューションの開発を専門とし、業界や市場の進化する需要に適応できるように企業を支援しています。