2024/06/07
by 玉木 亜弥子
 

日々、お客様のご関心や課題についてお話を伺う中で、これまで以上にデータを活用したいという機運の高まりを実感しています。一方で、データ活用にはいくつかの一般的な課題があることも明らかです。例えば「データの量が多過ぎてExcelでは扱い切れない」、「ファイルでBIレポートを共有するのが面倒」、「分析したいデータが社内のさまざまな仕組みに点在している」、「どのBIツールも特有のUIなので、使える人材がいない」といった声をよく耳にします。

また、「CRMとERPでBI基盤が違うので、計画と実績を比較しづらい」と、データ散在の課題を挙げ、理想的なデータ分析基盤についてご相談を受けることもあります。

こうした課題に対して、私が便利で強力なBIプラットフォームとしてご紹介しているのが「Microsoft Power BI」です。Gartner Magic QuadrantではBIプラットフォームのカテゴリにおいて16年連続でリーダーに位置付けられており、実際に海外では多くの企業での導入実績があります。

世界ではBIプラットフォームとして圧倒的な地位を誇る「Microsoft Power BI」ですが、まだ日本企業ではあまり活用できていない印象があります。
その理由を推察すると、Power BIが複数のツール/サービスで構成されているため、一見すると複雑でとっつきにくく、諸外国と比べてIT人材が少ない日本のユーザー企業にとってはそこが障壁となっているのではないでしょうか。
しかし、特徴や使い方のポイントさえ押さえれば、Microsoft 365ユーザーにとってこれほど使いやすいBIプラットフォームは他にないと私は思っています。

そこで多くの日本企業でBIレポート作成に使われていることも多いExcelとの違いにも触れながら、Power BIを活用するための手順や特徴を整理しますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

Power BIの魅力

「BIツール」と呼ぶには一般的に、「データ抽出・加工」、「レポート化」、「レポート共有・配信」の機能を備えていることが条件となりますが、その仕様は一様ではなく、ツール毎に個性があります。

Power BIの場合、データ抽出の対象にできるデータソースは数百種類に上り、他のBIツールと比べて圧倒的に多いのが特徴の1つです。
例えばExcelを中心に据えたデータ活用では、ExcelファイルとCSVファイル程度しか取り込めないことも障壁となりますが、Power BIなら各種データベース(Azure SQL、IBM Db2、PostgreSQLなど)や、WebやAPIの活用で重要なXML、JSON、HTMLで記載されたテーブルのデータも取り込めます。

また、抽出したデータの加工に関しては、Excelに酷似したGUIで操作できるため、感覚的に操作方法がわかりやすいのも特徴です。

さらにMicrosoft 365との親和性が高く、例えばレポートをSharePointのガジェットとして表示させたり、SharePointリストやFormsの入力結果が格納されたExcelデータを自動連携させたりすることも可能です。

Power BI Proライセンスを契約している場合、1日8回の自動同期を実行できるため、Formsで収集したアンケートの回答状況と結果を自動的に最新化するような運用も可能です。

Power BIの構成と作成・共有の流れ

「Microsoft 365との親和性が高いなら、とりあえず触ってみよう」と思われるかもしれませんが、それがかえって「苦手」、「難しい」という意識を生じさせかねません。つまずかないためには、Power BIが複数のツール/サービスで構成されていることや、レポートを作るまでの流れを理解しておくべきです。

まず把握していただきたいのが、Power BIは2つのツール/サービスに分かれていることです。

大まかに説明すると、レポートの作成には、各自のパソコンにインストールする無料のアプリケーション「Power BI Desktop」を使用します。Power BI Desktop上で作成したレポートを「発行」ボタンを押すことでクラウドサービスの「Power BIサービス」にアップロードし、そこからレポートを共有・配信するのです。

なお、正確にはPower BIサービスにも共同編集などのレポート作成機能があります。

Power BI Desktopの構成

続いて、Power BI Desktopを詳しく紹介します。さっそく起動してレポートを作成してみようとすると、どう使ってよいのか迷ってしまうのではないでしょうか。

Power BIでは、まずデータソースと呼ばれる機能で各データソースからデータを取り込み、それを「Power Queryエディタ」を使ってデータを適切な形に加工して基本的な分析用のデータセットを作成します。
その後、Power BI Desktopの通常画面に戻り、必要に応じてテーブル間のリレーションの追加やBIに求められる柔軟な計算を実現するDAX関数で計算式を作り、最後にレポート作成画面で可視化(ビジュアル作成)した後に、Power BIサービス上にレポートの発行を行います。

実は、Power BIサービス上でもレポートの編集作業は可能なのですが、こちらはどちらかというとレポート作成の共同作業向きです。

このようにPower BI Desktopの中も、また複数のツール/機能で構成されているのです。

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・Power Queryエディタ

Excelでもデータの置換(例:空白の自動除去)、ピボットテーブル、型変換くらいであれば可能ですが、従来Accessで実現していた他のテーブルとの結合条件を用いた結合や、データのグループ化などまではできません。また、条件式などを使って列を設けることもできますが、そのためにはExcel関数で計算式を書かなければなりません。

Power Queryエディタなら、テーブルの結合やデータのグループ化をGUIベースの操作で行うことができます。
より複雑な加工が必要なのであれば、M言語という言語を使用してデータ加工処理を定義できます。

・Power BI Desktop - レポートビュー画面

レポートで利用できるビジュアル(グラフ)は積み上げ、横棒グラフ、ファネル、散布図、円グラフ、分解ツリーなど多種多様で、Excelよりも多彩な表現が可能です。

・スライサー機能とDAX関数

特筆すべきは、スライサー機能です。項目を指定して条件を絞り込んだ際に、その対象データを絞り込んだグラフ、テーブル、カード等のビジュアルを動的に変化させることができます。

この柔軟な計算を実現するのがDAX関数です。見た目はExcel関数に似ており、SUM、MAX、AVERAGEといった関数は同様に利用できる容易さがありながら、スライサーで絞り込み操作等を行うと瞬時にデータセットに対して再計算を行います。
一方で、今年度売上目標のようなKPIについては絞り込む前の合計を表示し続けたいという要件をいただくこともあります。このような場合は、スライサー操作に左右させない計算もDAX関数で表現することできます。

DAX関数は、BIではどのような計算が必要とされているのかがよく考えられた関数となっています。

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ポイントを押さえればPower BIでデータ活用を自走化できる

このようにPower BIは、複数のツール/サービスや言語を使用する構成ではあるものの、頭の中で基本を整理できさえすればそれほど複雑では無く、むしろExcelとあまり変わらないスキルでデータ活用を高度化できる優れたBIプラットフォームなのです。

とはいえ、「最初はトレーニングを受けて、徐々に自走できる組織にしていきたい」、「手が足りないのでレポート作成を手伝ってもらいたい」といったお客様もいらっしゃいます。マイクロソフトのグローバル戦略パートナーでもあるDXCテクノロジーは、Power BIトレーニングサービスやPower BIレポート作成代行サービスなど、Power BIを活用するためのさまざまなご支援が可能です。
BIツールなどに関して、お困りごとがあれば、ぜひお問い合わせください。


著者について

玉木 亜弥子(Amiko Tamaki)
テクノロジーコンサルティング事業部 テクノロジーコンサルタント
日本ヒューレット・パッカード入社。その後、外資系コンサルティングファーム、日系事業会社のIT部門、Microsoftパートナー企業を経て、DXCテクノロジーに入社。現在は同社にてマイクロソフトコンサルタントとして活動。Microsoft365、Power Platform、Dynamic365等の幅広いマイクロソフト製品の導入・運用経験がある。