2025/11/19
by 小林 梨江子
大きな転換点を迎える日本企業のITサービス管理
日本企業のIT部門を取り巻く環境は、ここ数年で急激に変化しています。リモートワークは業界を問わず浸透し、SaaSを中心とした多様な業務アプリケーションが増加、複数のデバイスを業務で使用する従業員も珍しくありません。必然的に、従業員が利用するITサービスの数は増え続けています。従業員は日常的にITについて多くの問題やニーズを抱えていますが、問い合わせ先が複数に散在していると、どこに相談すればよいのか判断に迷い、ヘルプデスクに問い合わせざるを得なくなります。
セルフサービスの機能が提供されている場合でも、検索結果に必要な情報が表示されず、一次対応が減らないどころか逆に増えることもあります。さらに、引き継ぎに必要な情報が担当者の経験や記憶に依存してしまい、対応内容が記録されていないチケットが発生するなど、運用品質のばらつきも課題となっています。ナレッジが複数の場所に散らばり、更新のルールが曖昧なまま蓄積されることで、情報が活用されず、結果として新しい問い合わせを生む構造に陥っている企業も少なくありません。
こうした問題が積み重なると、IT運用部門は「問い合わせ対応に追われる毎日」から抜け出せなくなり、将来を見据えた改善活動や、DX推進に向けた体制づくりに十分なリソースを割けなくなります。その結果、業務部門の要望に応えきれず、IT部門の価値が正当に評価されにくくなるという悪循環が生じます。これらの課題を背景に、統合的なITサービス管理の実現に向けて ServiceNow ®の活用が進み、さらに企業ITでの本格的なAI活用を支える ServiceNow AI Platform への関心が高まっています。
ServiceNowとAIが切り開く「新しいITサービス管理」
生成AIおよびエージェンティックAI(本稿以下では便宜上、AIとします)の進化は、ITサービス管理のあり方を根本から変えつつあります。従来のチャットボットやキーワード検索に依存する仕組みでは、ユーザーが適切な情報にたどり着けず、結果としてヘルプデスクの負担が軽減されないという課題が残っていました。Now Assist に代表される ServiceNow AI Platform は、AIによるチケット内容の要約、ユーザーの意図に合わせた関連ナレッジの提示、統合的なナレッジに基づく回答など、これまで担当者が対応していた多くの作業を自動化することで、この課題の解決に貢献することが可能です。
ユーザーも、従来の検索ベースのポータルではなく、より自然な会話形式で必要な手続きや操作方法を案内してもらえるようになり、これまで迷いやすかった申請手続きやトラブルシューティングが格段にスムーズになります。結果として一次解決率が向上し、ヘルプデスクへの問い合わせが減少するため、L2・L3の担当者が本来注力すべき高度な業務に集中できるようになります。
一方で、AIの導入に対しては「日本語の自然さが物足りない」「ナレッジの質や量によって回答品質が左右される」「導入しただけでは劇的な変化が見えにくい」といった声も存在します。また、運用設計が十分でないまま導入した場合、AIの回答がユーザーの期待に届かず、かえって混乱や不満を招くケースもあります。つまり、AI導入は単なるツールの導入ではなく、より広い意味での運用変革であり、データ整備やナレッジ品質の向上、運用ルールの見直しまで含めた総合的なアプローチが求められるのです。
DXCが導入プロジェクトで得た「AI導入の成功ポイントと、失敗する理由」
DXCテクノロジー・ジャパンは、日本国内でも数多くのServiceNow導入および AI活用プロジェクトを支援してきました。その経験から導き出された成功のポイントは明確です。
成功のポイント
- 「AIで何ができれば成功か」を初期に明確化する
- ナレッジ整備を初期段階から重視する
- 必ず本番データで検証する
- L1/L2など効果が出やすい領域から段階導入する
- グローバル事例・最新機能・ベストプラクティスを積極活用する
この中でも特に顕著だったのは、ナレッジ整備と本番データによる検証の重要性です。多くの成功事例では、この2点に十分な時間をかけることによって、AIの回答精度が安定し、導入効果の実感にもつながっていました。AIのパフォーマンスは「学習元の情報の質」に大きく依存するため、ナレッジが整理されていなかったり、実際の問い合わせの文脈とは異なるサンプルデータだけで検証を進めたりすると、ユーザー体験や運用品質にマイナスの影響が出てしまいます。これら2つのポイントは、AI導入の成否を左右する“基盤”ともいえるものであり、成功した企業ほど最初からこの重要性を認識し、丁寧に取り組んでいました。
こうした成功パターンとは対照的に、導入がうまくいかない企業には共通点があります。導入すれば自然に精度が高まると誤解し、ナレッジ整備やデータの見直しを後回しにしてしまうケースや、複数チャネルが乱立したままAIを導入し、ユーザーがどこへ問い合わせれば良いのか分からなくなる環境ではAIが十分に力を発揮できません。また、評価基準が曖昧なまま導入を進めてしまい、期待とのギャップだけが残ることもあります。ほとんどの場合、失敗の原因は技術ではなく運用やデータ、そして組織内の合意形成にあります。
AI機能の導入と運用を成功に導くために必要なパートナーの条件
ここまで述べてきたように、ServiceNowやAIを活用したITサービス管理の変革を成功に導くためには、明確な合意形成やデータ品質の向上、段階的な導入アプローチといった複数の要素を考慮しなければなりません。これらはどれか一つに取り組めば良いものではなく、運用プロセス全体を一体として捉え、段階的に導入を進めながら、継続的に改善していくことで初めて大きな成果につながります。
そのため、多くの企業では、豊富な導入実績を持ち、最新の技術動向や運用ノウハウに精通した信頼できるパートナーと協働しながらプロジェクトを進めています。特にAIの機能はユーザー体験や運用品質に直接影響するため、技術的な構築能力だけではなく、ナレッジマネジメントや運用設計、期待値コントロールに至るまで総合的に伴走できるパートナーが重要です。
DXCテクノロジー・ジャパンは、ServiceNowの活用とITサービス管理の高度化を総合的に支援するため、アドバイザリーから構築、運用、改善まで一貫したサービスを提供しています。特にServiceNow AI Platformの導入および活用については、グローバルで得られた実践知や海外拠点との連携による最新情報の取り込みに支えられながら、日本企業の実情に合わせた最適な導入支援の実績を積み重ねています。
ServiceNow導入の進め方、AI活用のロードマップ策定、ナレッジ整備、段階的導入の設計など、どの段階からでもDXCがご支援できます。ぜひお気軽にご相談ください。
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