2023/5/17
by John Makin、Gregor Matenaer

※本稿はDXC Technologyのグループ企業であるLuxoftの記事を翻訳したものです。出典:Revolutionizing the automotive industry: The era of software-defined vehicles and new testing paradigms

 

ソフトウェアデファインドビークルの夜明け

テクノロジーの急速な進化により、自動車業界は新たなイノベーションの時代、つまりソフトウェアデファインドビークル (SDV) の時代に突入しました。SDVはもはや純粋な機械ではなく、車輪付きの高度なソフトウェアシステムであり、これまでの自動車の世界の枠組みを刷新します。このパラダイムシフトは、先進運転支援システム (ADAS) や、自動運転機能、コネクティビティの強化など、数多くの新機能への道を開き、そのすべてが運転体験を変革しています。

ただし、この変革により、車載ソフトウェアのテスト方法も大幅に変える必要があります。従来のテスト手法は、最新のSDVの複雑さと細かな差異に対処するには不十分であることが明らかになりつつあります。このため自動車業界は、これらの次世代車両の安全性、信頼性、性能を確保するために、新しいテスト戦略と手法を採用しなければなりません。それと同時に、自動車業界のソフトウェア開発と検証に共通のプロセス、手法、ツールを適用する新たな機会が生まれています。

 

ソフトウェアデファインドビークルの複雑さ

ソフトウェアとハードウェアの統合

SDVでは、これまでに類のないレベルでソフトウェアとハードウェアが統合されています。その結果、メーカーは新しい機能を迅速に導入できると同時に、シームレスに更新や改善を行えるようになるなど、ソフトウェアとハードウェアの統合が車の機能を実現するうえで重要な要素になります。ただし、複雑さが増すことで、ソフトウェアのテストに課題も生じます。

ソフトウェアの異種性

ソフトウェアデファインドビークルは、多様なソフトウェアプラットフォームとコンポーネントを基盤として構築されており、それぞれが車両の特定の領域を制御します。この異種性により、これらのソフトウェアコンポーネントの相互運用性を効果的に評価できる高度なテスト戦略の策定が必要になります。

 

新たなテスト戦略の必要性

継続的インテグレーションと継続的デプロイメント

頻繁に行われるSDVのソフトウェア更新に対応するために、自動車会社は次々と継続的インテグレーション (CI) /継続的デプロイメント (CD)の手法を採用しています。これらの手法では、車載ソフトウェアの品質と信頼性を確保する堅牢なテストプロセスの実施が必要です。

テストフレームワークは、ソフトウェア統合のCI/CDプロセスにシームレスに組み込まれる必要があります。1つのSoCからECUないし車両全体までを集約する、完全に統合されたコラボレーションモデルで考慮する必要があり、これによりすべてのシステムレベルがカバーされます。大規模な仮想化とHIL(Hardware-In-the-Loop)テストとともに自動化を推進することが、継続的な認証とテストの鍵となります。また、ユーザーインザループテストは、アジャイル型製品開発サイクルの一部として、シームレスなプロセスドキュメントに記録される必要があります。

セキュリティ上の懸念事項

SDVのコネクティビティと自律性が高まるにつれて、SDVはサイバー攻撃の標的になりやすくなります。その結果、セキュリティテストがソフトウェア開発のライフサイクルに必須の要素になります。自動車会社は、脆弱性を特定して潜在的なサイバー脅威から車両を保護するために、厳格なセキュリティテスト手法を採用する必要があります。

データ駆動型テスト

SDVは大量のデータを生成するため、データ駆動型のテスト手法が必要になります。これらのアプローチでは、データ分析と機械学習を活用して車両動作のパターンと傾向を特定し、最終的にはより正確で効率的なテストが可能になります。

 

ソフトウェアデファインドビークルの新たなテスト手法

大規模な仮想化と自動化

デジタルツインなどのシミュレーション手法を含む大規模な仮想化と自動化は、効果的な車両テストプラットフォームの基盤となります。デジタルツイン (vECU/SIL) で行われるシミュレーションが、SDVのテストで利用されることが増えています。これらの仮想環境により、物理的なテストの工数を削減しながら、さまざまな条件やシナリオ下で車両ソフトウェアの性能を評価することが可能になります。一部のテストからハードウェアを切り離すことで、ハードウェアサンプルが入手できないことによる開発と検証プロセスの中断/停止がなくなるなど、明らかな時間的メリットが生まれます。

AD/ADASや車内センサーシステムのための仮想テストデータなど、その他のデジタルツインを利用すると、テストの高速化や工数の大幅な削減が可能です。同様に、テストベンチとHILのホスティングが、最終段階においてより重要になります。大規模な専門環境でSILとHILのサーバーを連携させ、24時間365日のリモートアクセスを行うことが標準になるでしょう。

モデルベーステスト

モデルベーステストは、自動車業界で注目を集めているもう1つの新しい手法です。この手法では、車両のソフトウェアコンポーネントの抽象モデルを作成します。作成した抽象モデルはその後、テストケースの生成とシステム動作の評価に利用されます。

人工知能 (AI) と機械学習

AIと機械学習は、SDVのテストプロセスをあらゆるレベルで強化するために導入されつつあります。これらのテクノロジーは、複雑なテストの管理、潜在的な問題の特定、テストプロセスの最適化に役立ちます。これにより、より効率的で効果的なテストが実現します。

では、AIを利用すべきタイミングはいつなのでしょうか。ソフトウェアの検証と単体テストの初期段階から利用を開始して、すべての統合テストとシステムテストでも利用し、理想的にはさまざまなテストレベルで膨大な数の問題と不具合を分類するために利用できるでしょう。

自動車テストの未来に向けた対応

ソフトウェアデファインドビークルの開発は自動車業界に革命をもたらし、比類のないレベルのコネクティビティ、インテリジェンス、自律性を実現します。ただし、この変革により、車載ソフトウェアのテスト方法も変える必要があります。仮想化、シミュレーション、デジタルツイン、データ駆動型テストなどの新しいテスト戦略と手法を導入することで、自動車会社は、この技術革命によってもたらされる機会を活用しながら、次世代車両の安全性、信頼性、性能の確保が可能になります。

 


著者について

John Makin

Luxoft Automotive、ビジネス戦略およびGTMリーダー

Luxoft Automotiveのシニアディレクターとして、GTM戦略およびビジネス戦略の策定と実施を担当しており、Luxoftのビジョンを「ソフトウェアデファインドビークルへの変革を加速する」と定めました。以前は、複雑なITアウトソーシングに携わる大規模な組織で最高技術責任者を務めており、自動車、政府、公益事業、金融サービス業界の知見と奥深い経験を獲得しました。時間が許せばパワーカイト、フライフィッシング、射撃、模型スタントヘリコプターの飛行を楽しんでいます。

Gregor Matenaer

システムテストおよび検証責任者

システムテストおよび検証責任者としての役割の一環として、先進運転支援システム (ADAS) センサー (レーダー、多目的カメラ、ステレオカメラ、フュージョンプラットフォーム) の主要販売およびプロジェクト管理センターの全責任を担っています。また、有名なティア1自動車企業で第一世代のレーダーフュージョンプラットフォームの開発を管理するなど、ADASで20年以上の専門的な経験があります。以前はCMORE Automotiveという会社を共同設立し、AD/ADASの開発とテストを新たなレベルに引き上げる機会を見出して、AI主導の開発に注力していました。