2024/02/26
by 鶴田 将史
 

「医薬品」を製造し、日本はもちろん世界に届けるには、各国・各地域の法律や規則などに基づいて有効性や安全性を証明する必要があります。近年、医薬品業界が急激な成長を遂げる中、情報管理の重要性が高まっていることは間違いありません。そこで、本稿では医薬品に欠かせない情報管理の仕組みや、医薬品業界の近年のトレンド、日本企業が世界へ医薬品を届けられるように支援するソリューションについて紹介します。

医薬品の安全に欠かせない情報管理の仕組み

古くから「人は病の器」と言われます。医薬品は、常に病気に脅かされている私たちが健やかに過ごすために、大きな支えとなっています。

一般的に、医薬品が法律に基づいて有効性や安全性を認められ、世に出るまでに10年~20年の開発期間を要します。それまでの間は「化合物」や「治験薬」という名前で呼ばれ、あくまで化学物質であり人体への影響は不明である、という前提で開発されています。

晴れて医薬品として承認されたとしても、医療の現場で実際に使われることで初めて、好ましくない作用が発見されることも珍しくありません。特定の疾病を持つ人や、他の医薬品との組み合わせによる副作用は、多くの試験を経ても完全には把握しきれないことがあるためです。

そこで重要なのが、医薬品の開発におけるさまざまなフェーズを一貫して支える「安全性情報管理」の仕組みです。薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)により規定されており、製薬企業や医療機器、再生医療などの製品を取り扱う企業は、これに従って業務を遂行する必要があります。

安全性情報管理のデータベースには、医薬品の効能効果に関する情報、好ましくない作用(ADR: Adverse Drug Reaction)に関する情報、過去の臨床試験の情報などが保管されており、医師・薬剤師などからの報告を受けて更新されます。データベースの情報は医薬品の添付文書の元になっており、医師が処方する際の判断やドラッグストアの市販薬を安全に使用するために欠かせません。

近年のトレンド:成長する医薬品業界と新たに求められるレギュレーション対応

2000年代に入り、医薬品業界は急成長をしています。日本製薬工業協会(JPMA)の調査では、2022年度に日本で実施された医薬品の臨床試験の費用総額は約3000億円に上り、新薬やジェネリック医薬品の開発が活発なことを物語っています。当然ながら、グローバル市場においても日本の医薬品への期待、そして存在感も高まっていくと思われます。

同時に、開発期間は短縮されています。特に2020年に拡大した新型コロナウイルスに対応するワクチンや治療薬は、わずか数年という短期間で開発・リリース・製造され、これまでに類を見ない速さで生活者の手元に届けられました。これには安全性情報管理システムが貢献しています。

こうした時代の流れや当社のお客様の声を受け、医薬品の安全性情報や症例情報管理業務を支援するDXCテクノロジーのパッケージソフトウェア「ClinicalWorks/ADR」はさらに進化を遂げようとしています。

ClinicalWorks/ADRの30周年を前に着手するグローバル化

ClinicalWorks/ADRはオンプレミスやパブリッククラウド(IaaS)環境での稼働から、SaaS形式まで、各社個別のご要望に応じた形でのご提供が可能です。

1994年に登場して以来の堅実なサポートと高品質なサービスは現在まで受け継がれ、国内製薬会社様を中心に幅広い支持と評価をいただいています

そして、30年目の節目を前に、市場及び業界の動向に対応するべく、日本発の安全性情報管理業務支援プロダクトとして日本の対応のみならずグローバルの規制要件への対応に着手しました。2023年初頭に実施した顧客満足度調査や日々のお客様とのコミュニケーションを通して、「グローバル化」や「安全性情報管理データベースの機能拡充」への期待が高まっていること、なかでもグローバル化への取り組みが急務であることが判明したためです。

日本製プロダクトとして例のない今回のグローバル化対応によって、ClinicalWorks/ADRは大きく2つの特徴的な進化を目指しています。

グローバル化対応①:データの整合性を保つ「シングルデータ」を実現

業界のトレンドでもある「シングルデータ」を実現します。日本の製薬会社が核としているデータベースはPMDA(医薬品医療機器総合機構)の様式に合わせたものです。海外展開にあたり、FDA(米国)やEMA(EU)など現地のレギュレーションに対応するために別のデータベースを構築することが少なくありません。

しかし、現地のレギュレーションに対応するために、複数のデータベースで情報を管理していくと、やがてこれらの間で不整合が発生する恐れがあります。実際に2023年の報告で、EUが実施した監査での指摘は、60%がデータの整合性(DI: Data Integrity)に関するものでした。

そこでDXCでは、DIの問題を根本から解決するため、複数のデータベースを立ち上げるのではなく、全てのデータを「シングルデータ」として取り扱うための開発に取り組み、ClinicalWorks/ADRのグローバル化の基礎を築きます。

グローバル化対応②:現行業務を妨げず将来に備え、グローバル展開時にはローコストで対応

DXCはお客様とのエンゲージメント強化に重点を置き、これまでお使いいただいた方々がグローバル化に際して具体的にどのようなニーズを持っているかを明確化し、それらに的確に応えることを最大の要点としました。

グローバル化で求められる機能はさまざまで、お客様のビジネス状況によっても異なります。例えば、進出する地域によって規制当局に伝送すべき情報のレベルは異なります。また、提携関係にある海外製薬会社を通じて医薬品を流通させる場合には、現地当局への情報転送機能を日本側で持つ必要はありません。

個別に状況が異なる中で、最大公約数をカバーするシステムを導入すると、オーバースペックとなり不要なコスト負担が発生してしまいます。当局の求めに応じることはビジネスの必須要件であるものの、利益に直結する性質の対応ではないため、多くのお客様がコスト最適化の強いプレッシャーを感じています。

こうした点を踏まえて、ClinicalWorks/ADRのグローバル化では、お客様が「必要な機能を」、「必要なときに」、「必要な分だけ」拡張するボトムアップのアプローチが可能なアーキテクチャとしました。これにはソフトウェアエンジニアリングの観点で大規模な対応が伴いますが、新製品としてリリースするわけではありません。

本製品をご利用中のお客様は、リプレース費用を負担することなく、これまでと変わらない使い勝手で業務を継続できます。他社製品からの乗り換えをご検討のお客様は、豊富なオプションを組み合わせることで、現行システムと同等の機能性をよりリーズナブルなコストで満たすことができます。そして、海外展開のタイミングにおいては、新たな要件を満たすための機能を最小限の投資で手に入れられます。

日本のお客様に寄り添うグローバルITカンパニー

DXCテクノロジー・ジャパンは、グローバルITカンパニーとしての技術力・総合力を生かし、日本のお客様に寄り添いながらClinicalWorks/ADRを進化させてきました。先般の新型コロナワクチンへの対応に際しては、グローバル製薬企業の日本法人ならではの要件に合わせた機能開発に柔軟に対応できたことが高く評価されました。

昨今の医薬品市場の展開に対応し、より多くのお客様の業務を支援可能なソリューションを提供するべく、テクノロジーの面から製薬企業のお客様の現場を支えていきます。

「気になるけれど、うちに必要な構成の価格は?」、「狙っている地域は経験のないレギュレーション。オプションの提供やサポートは可能か?」などのご相談がありましたら、気軽にお問い合わせください。

 

 

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著者について

鶴田 将史(Masafumi Tsuruta)
DXCテクノロジー・ジャパン ヘルスケア・ライフサイエンス部 PV SME/Consultant, Global化統括プロジェクトマネージャー。1991年生まれ、熊本大学大学院医学教育部医科学専攻卒。CRO/医療機器メーカーで安全管理業務に従事。安全性領域システム関連のプロジェクトマネジメント及び規制/ビジネスコンサルティング業務を経験。直近はビジネスコンサルティング及びクリニカルワークスビジネスのグローバル化を推進している。